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理想のオーケストラレコーディング・オーケストラ楽曲の制作を求めて

オーケストラレコーディングの指揮者

当音楽プロダクションでは、サンクトペテルブルク(ロシア)とケルン(ドイツ)で、オーケストラのレコーディングを行う。写真は指揮者のマリアで、非常に有能なバイオリニストでもある。


(※海外で行われている当社のオーケストラレコーディングにおいて、一般的なサービスの提供が開始されています。32人編成のストリングスオーケストラで、凡そ1曲30-40万円にてオーバーダビングのレコーディングが可能です。しかも、グローバルクォリティの演奏で、納品期間も完成型の楽譜を受け取ってから2-3週間で可能です。その後のミキシング・マスタリングにおいては、楽曲制作をご依頼いただいた場合は無料というシステムを用いています。編曲が必要な場合は、別途ご相談ください。)

オーケストラを用いた楽曲を扱うことは、音楽に携わる者にとって誰にとっても魅力的であるはずです。自分にとってもそれは例外的では無く、いつかはフルオーケストラの楽曲を扱ってみたいと思っていました。特にクラシカルクロスオーバーやポップスの楽曲に現れるストリングスオーケストラの魅力というものは、幼少より聴いてきたリチャード・クレイダーマンやカーメンキャバレロ、サラ・ブライトマンやイル・ディーボといった、世界の超一流たちの既得権益ともいえるサウンドには、必ず壮大なストリングスオーケストラが主旋律を成す個所が含まれています。それ故に、オーケストラ音源を扱えるということが、一流としての証の一つとして言えるのではないかと考えています。

魅力と共に、楽曲の在り方という意味からすれば、先ず絶対的な予算額を必要とすることは間違いありません。多くの人数を要することは勿論、その前段階としての編曲を含めた多くの手間は、通常の楽曲と比べられないほどに大掛かりなものとなります。それは徐々に音楽プロダクションの世界において地位を確立していく中で、どれ程の額面が必要であるかを様々なオーケストラ関係者から話を聞くことで、解明され打ち砕かれる部分でもありました。実際的に楽曲を作り、それを販売していくことで得られる収益というものを遥かに超えてしまうのがオーケストラレコーディングの通例で、より現実的な額面で抑えることができるというのは不可能と思える話でした。この辺りで止まっていたのが、凡そ10年くらい前でしょうか。ここで一気に転機が訪れることになるのですが、それは私が世界へ活動の拠点を移しつつある時でした。

先ず海外、主にヨーロッパで行われているレコーディングの多くが、かなり低コストで行われていることを知ります。国内はどうしてもその需要という部分から、一回当たりの額面を上げないと採算が取れないという部分があります。このコストというハードルは、何にも増して制作の妨げになることは間違いありません。予算がない、若しくは予算が大きすぎるという現実は、どの分野の制作活動においても妨げになります。そして、更に突き詰めて行ったときには、そのクォリティというものが圧倒的であることも知るに至ります。よく会話に出てくることですが、

『どうして海外のオーケストラやピアノは良い音がしているのか?』

というものです。今であればそれなりの経験を積んだ中でそれなりの理由をお話ができますが、当時は暗中模索以外の何物でもなかった為に、具体性をもった若しくはリアリティのある骨格を成した説明というものが難しいと感じていました。しかし、何かが圧倒的に違うことだけは、間違いありません。


2021年公開のドイツ映画の主題歌として用いられた楽曲。プロデュースからレコーディングまで、全ての制作を請け負った。勿論ストリングスオーケストラのレコーディング音源も用いられており、全120トラック前後を運用した大作となった。レコーディングは、デュイスブルグ(ドイツ)とパリ(フランス)、サンクトペテルブルク(ロシア)などが舞台となった。

今では毎週のように世界の何処かでオーケストラのレコーディングを行っている私ですが、少し昔は何処にでも居る普通の理想と現実のギャップに悩む音楽家でしかありませんでした。それから時間の経過とともに世界へ活動の場を求め、更にはプロデューサーという立場で楽曲を扱う身となった昨今、より多くの可能性を追求できるポジションにいると感じています。勿論オーケストラが自由に扱えるという環境から、依頼される楽曲には積極的に大編成の楽音を取り入れていますし、楽曲の取扱量が多ければ当然コストは下がってきます。最も多い時などは、2週間に一回ケルンのスタジオを借り切り、一日5曲のレコーディングを行ったりすることもあります。ヨーロッパがコロナの中でも、少し平穏を取り戻した2020年の夏などは、雇用確保という意味合いからもとてつもない数の楽曲をレコーディングしていました。オーケストラのみならず、ドイツからは音楽家たちの惨状が伝えられ、ロンドンのドラマーからは毎月の仕事が$2000を切らないようにして欲しいと嘆願され、ニューヨークのギターリストからは今こそサブスクリプションの必要性を顧みる機会だということで、やはり仕事量の確保ということを非常に強く言われました。世界に股を掛けるこうしたチームというのは、一人一人のスキルが非常に高いことは勿論、コミュニケーションがオンラインになったからこその難しさもありますが、その中でも最大の想像力を働かせることのできる頭脳集団という特質を持ち合わせていることから、そう簡単に変わりを見つけることができません。皆が音楽活動を維持できるよう、企画を考えより多くの楽曲を制作できる環境を整えることこそが、プロデューサーとしての手腕を試されるという時期でもありました。


コロナが最も勢いを増した2020年初夏の緊急事態宣言の只中で制作された、リチャード・クレイダーマンのリメイクアルバム。何時も仕事を共にする世界5か国のスーパースターたちをオンライン上で集め、プロデューサーである自分を中心にストリングスオーケストラからギター、ドラム、シンセサイザー、ベースと多くの楽器を用いた大編成のアルバムを作り上げた。

『ART OF RICHARD CLAYDERMAN』は、コロナ渦という最も難しい環境の中でも、世界との連携でストリングスオーケストラを含む大編成での制作となりましたが、こういう時だからこその緊張感と時間的自由というものを感じられる作風になりました。サウンドとして目指したものとしては、次世代の更に次を睨んだ形で世界へ向けてプレゼンテーションを行う趣旨を盛り込み、地域を限定することなく全世界に向けて取り組んだ音源でもありました。実際に香港チャートで22位まで上昇し、これから他の国でもチャートインが垣間見れると感じています。また参加メンバーたちが多くの制限を受け、音楽活動が自由にできない中にも理想の音源を作り出そうとトライした背景があり、時間的な余裕もあることから心から制作を楽しめた一作にもなりました。

レコーディングエンジニア

2019年の初夏にウィーンフィルハーモニーのレコーディングに参加した折のワンショット。左はウィーンフィルの専属レコーディングエンジニアで、最もウィーンで売れている言われるゲオルグと共に。


以上のように、多くのストーリーを持つオーケストラの音源制作ですが、今度は音源としてのクォリティ・またどういう形でレコーディングからミキシングそして完成までに持ち込むのかを追ってみたいと思います。実際にオーケストラ音源を用いてのミキシングというのは、中々携われるものではなく、どういう形で完成形を見るのか?という部分も含めて未知の世界であるといえるかもしれません。特に先に述べたように、クラシカルクロスオーバーやポップス系の楽曲に含まれるストリングスオーケストラの楽曲は、大規模な音楽プロダクションを必要とします。100トラック越えは当たり前で、曲自体の展開も大きいのが特徴です。それ故に、DAW内で楽曲をミキシングすることはまずあり得ないと考えた方が良いかと思います。映画のサウンドトラックなどは、ダイナミックレンジが広大とも言える要素を持ち合わせていますから、ただでさえ曲の展開が大きいのに、とてつもないエネルギーをミキサーが受け止める必要が出てきます。そうなるとDAWはあくまでレコーダーとしての役目を果たすのみで、用途としてはそれ以上のものを求めることはしません。あくまでレコーディング・再生用ソフトとして機能し、他のエフェクト系に関しては全てハードギアを使用することが正解と言えます。これは突き詰めれば突き詰めるほどに必要とされる要素で、無理にデジタルの中だけで詰め込もうとすれば、パワー感ある楽曲は扱いきれなくなり一気にその魅力を失います。

主に用いられるミキシングコンソール。右側がSSLで、自由な機材構成を可能とする。elysiaは、エンドーサーとしての契約以上に、素晴らしいHi-Fiサウンドを作り上げられるゆえに、SSL内のインサートは殆どがelysiaで構築されている。一部外部へのインサートポイントに関しては、IGS Audioが用いられている。また左側のSPL Neosは、150dBものダイナミックレンジを受け止められるミキシングデスク。スーパークリーンであると共に、強力なレンジの楽音も受け止められるため、非常に重宝する。サウンドテイストは、elysiaとはまた違う持ち味のHi-Fi。


また、こうした大編成の楽曲においてはリバーブが非常に重要な要素として挙げられます。勿論プラグインでどうにかするようなものではなく、自然な楽音を作り上げるには最高峰のリバーブ機材を必要とします。特に規模の大きな楽曲となった場合、数系統のチェインを組む必要性があり、一台のリバーブで多くに対応するというのは実質上不可能とも言えます。加えて昨今の音楽制作はクラシックの世界でも革命的とも言える考え方が受け入れられており、響きがデッドな会場でソリッドなサウンドを録り、その後デジタルリバーブで楽曲を作り上げることが主流となりつつあります。特に先進性の強いドイツ、オーストリア、ロシアなどではその傾向が色濃くある状況で、ウィーンフィルなどもデジタルリバーブを主力とする制作方法を積極的に取り入れています。

ウィーンの中心街からほど近いスタジオでのワンショットで、ウィーンフィルハーモニーとカーフマンのレコーディングが行われた折のデジタル機材。RMEのオーディオインターフェイスの下には、クァンテックのリバーブが用いられているのが見て取れる。ミキシング時にも、積極的に用いられた。


常に時代は移り行くもので、様々なトレンドはありますが、理想と言えるレコーディング作品を残すには、かなりの労力と費用を必要とするのは間違いありません。しかし、より画期的な仕組みを作り上げることで、より負担の少ない形で作品を仕上げることも不可能ではありません。これまで私たち自身の制作経験から得られた多くのノウハウは、間違いなく今後の作品に生かされることとなります。特に昨今の作品内では、オーケストラ部だけのレコーディングを国内の音楽プロダクションで請け負うことも頻繁です。額面以上に、サウンドテイストとしてやはり本場のものに叶うものはありません。

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