アメリカの高級電源メーカーEquitech社と日本総代理店契約を締結いたしました。Equitech社はこれまで多くの場で実績を持っており、当社のスタジオにも100v仕様が導入されています。クリーン電源から大幅な音質向上を目指せる故に、SSLのメインコンソールとレコーディング・ミキシング用途のAD/DAコンバーターに用いています。SSL、コンバーター共にユニバーサル電源を用いていることから、230vでの運用も可能なスタジオとしては様々なバリエーションを考慮しましたが、敢えて国内仕様である100vの特別仕様におけるEquitechで運用を行っています。
そもそも電源部に興味を持ったのは、ヨーロッパへエンドーサーのオーディションで行った折、115vや100vで運用されている機材のサウンドとはかなり別物で、先方のスタジオで用いられる230vのサウンドに圧倒されるという経験を通して、電源部への関心を寄せるようになりました。どのメーカーも、基本的には電源部による音の違いというものを公式には認めませんが、プロデューサー・エンジニアという立場からすると明らかにその違いというものを感じます。思い込みではなく、トップメーカーにおける世界から凡そ5-6人が選抜されるオーディションという、究極の場で発せられる緊張感の中で感じるサウンドは、間違いなく同じ機材であっても日本のものとは別物でした。しかし、別物と言ってもそれが日本で現実的に運用が不可能な話なのかと言えばそうではなく、単に230vを運用できる環境にしてしまえば、機材の能力を存分に発揮する環境は整います。正に僕がヨーロッパで感じてきたサウンドそのものを、国内でも実現することはそう難しいことではありません。
そして次の議論として、そもそも本場ヨーロッパの230vで運用しているその音が『良いのか悪いのか?』という部分があります。散々に230v、115v、100vと音環境において構築を行い、それぞれのサウンドのテイストを感じ、そしてそれを実際的な音楽プロダクションの業務に反映してきた身としての感想ですが、制作は圧倒的に230vがやり易いといった感覚です。特にマスタリングは、この分野のリーディングカンパニーであるハイエンドメーカー、SPL社の120vテクノロジーの機材を全て持ち合わせている状況なので、内部電圧を120vで運用するのであれば、猶更230vという高圧からダウンコンバージョンした方が良いという結論に至ります。また、Kii Three + BXTという現在最強と言えるような解像度を誇るスピーカーも、230vの運用が最も制作環境においては素晴らしいパフォーマンスを発揮してきます。
しかし、これはあくまで制作環境での話です。今回の電源部において、当社の考えとしてはHi-Fiオーディオファンに向けて、しなやかさと繊細さを感じ取っていただきたいと考えています。115v運用は、100vよりもピーキーなイメージを持ちますが、それを輝きととらえる節もあります。230vに至っては完全な別物で、音像の大きさと大らかさが相俟って物凄く迫力のあるサウンドを可能とします。しかしこれがリスニング環境となると、やや Too muchのイメージもあり、きれいに隠れて欲しい部分までもが余りにリアリティに富んでいたりと、何にも方向性というものがあると思っています。
例えば国内でも人気の RME ADI-2ですが、あちらをとてつもないパワーを発揮するSPLのマスタリングチェインでコンバーターとして用いると、完全に受け止める側のパワー不足というものを感じさせます。また、現代風の味付けがされているが故の邪魔なテイストもあり、『この部分はこちら側でコントロールするから』と言いたくなるような個所も散見します。結果的にマスタリングとして作り上げるサウンドをスポイルしてしまっているような部分も出てきて、ハードギアでガンガン作り上げるマスタリング用のコンバーターとしては向いていないというのが現在のところの結論です。しかし、方やリスニング環境へ持ち込み、コンシューマー向けのサウンドシステムで聴いた折には、『なるほど』と言わせる性能を発揮します。
以上のように、用途により電圧や機材の選定がガラリと変化するものがあり、単にプロシューマーの立ち位置で勝負する環境が全て正解なのか?というクエスチョンが付くのは当たり前で、着地地点が異なれば当然のようにプロセスも変化するというのは誰もが容易に想像できる範疇です。そういう意味からも、100vにおけるリスニング環境において、ベストソリューションとなる一作として、今回のEquitechは最有力候補ではないかと考えています。
今後の展開としては、From 100v to 100v、From 120v to 120v、From 200v to 100v、From 200v to 120vなどのラインナップを揃えていこうと考えています。しかも2バージョンのご用意を考えており、廉価版の展開もされる予定です。Equitech側も日本仕様に対しては、今回の代理店契約にあたり柔軟な姿勢を見せておりますので、それぞれの用途に沿った形で対応を考えていきたいと思います。詳しくは、近日中にウェブサイトをオープンしますので、ご興味がありましたら情報を追って頂ければ幸いです。
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