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執筆者の写真Furuya Hirotoshi

最高のグランドピアノの音色とは?

最高のグランドピアノの音色について考える。

グランドピアノにおける選定では、一体何が物を言うのか?そもそも個々が持ち合わせている感性を、どう用い如何に判断を下して行くのかを考えます。

これまで様々な尺度から音について考えてきました。当社の場合は、音楽制作と楽器販売を一社の中に機能として持ち合わせていますから、それぞれの強味を共有するという考え方が根付いています。音を一から作るということでは、圧倒的に音楽制作が高い能力を求められ、また世界中のエンターテイメントと繋がっているが故に、非常にアグレッシブな世界観を有しています。また、各国のスタジオ機材メーカーからのエンドースメントという契約を有しているために、常に世界最先端の音を作り出すスキルとセンスも求められる、非常にシビアな世界です。 一方楽器販売は、アメリカ・ドイツからの輸入という意味で世界と取引を行いますが、ソフトコンテンツではない故に、ある意味非常にゆっくりとしたペースが特徴的です。音作りという意味でも、元々ピアノという個体が音を発してくれるが故に、ある一定のサウンドというものは存在しており、そこから方向性を決めたり微調整を施すというもので、一から何かを生み出すわけではありません。しかし、アコースティックサウンドを扱う為、ナチュラルで繊細な音というものを理解するのには、非常に素晴らしい環境であり、そこから学ぶものは多く存在するのは確かです。 これらを総合し、今回は理想のグランドピアノについてお話していみたいと思います。

アグレッシブな音楽制作から、ピアノの音作りというものをエクスプロールすると、様々な側面が見えてきます。一からどういう方向性の音にするのか?というものに対して、プロデューサーやエンジニアは、あらゆる要素を盛り込んで方向感を定めていきます。真っ白い画用紙にフリーハンドで描いていく制作の工程は、正に音作りというものの難しさを感じることのできる作業です。 一方先程も書きましたが、ピアノというものはオーバーホールを行い、パーツ交換をされたピアノであっても、またそれがグランドピアノであれアップライトピアノであれ、ピアノという音から逸脱することはありません。そのピアノの音を作り上げる職業の人間たちを、ピアノ調律師と呼ぶことからも、どちらかというと狂ったピッチを調律する、という域から超えていないようにも思える呼び名が一般的です。英語では更にPiano Technicianと言われることが多く、こちらはピアノ技術者と日本語に訳すことが出来るでしょう。実際に、私もPiano Technician Masterclassesの講義はよく受けているわけで、こちらは確実に音作りをメインとして活動が行われています。 つまり調律師という呼び名から超えられない日本のピアノ技術の現状というものは、ピアノの音作りはピッチを治す人という事実を再確認させるものであり、ピアノそのものの音作りを根底から行う人物という認識を、社会全般で固定化出来ないことを考えれば、これは明らかにピアノの音作り=調律というところで、作業内容が止まってしまっていることにも起因すると言えるかもしれません。 しかし欧米は明らかに異なる認識で、社会はピアノ・若しくはピアノ技術者(日本のピアノ調律師)を理解しています。この事実を裏付けるものとしては、アメリカで行なわれるレクチャーPiano Technician Masterclassesで扱われた、 『How to song by piano tech(ピアノ技術でピアノを歌わせる)』 という表題そのものに、ピアノの音とどういう考え方で向き合っているかが伺えます。この音の捉え方そのものが、どれ程に大きく違いが有るかを認識させられます。 方やピッチを中心としたピアノの音作りと理解する国内と、ピアノを如何に技術によって歌わせるのか?という考え方をしている欧米。これはもう根本的なところからの理解が異なりすぎており、考え方が異なれば音が異なるのは当然のことです。そしてこの考え方は、感性を大いに用いる欧米と、表面的に見えやすいところから音を数値化しようとする国内とに分かれると言えるかもしれません。 これら要素によって、私が以前同じピアノでも国内と海外で音が大きく異なることについて述べた、その結論の一部として理解することは出来ないでしょうか。これはスタインウェイ・グランドピアノという、1つのメーカーのピアノが日本に輸入され、その後の経年変化を見守ったときにも顕著に感じられたものでした。明らかに国内とハンブルグやデュッセルドルフ、ニューヨーク、ボストンで鳴っているスタインウェイ・グランドピアノとでは音色が異なります。何故和風の音が存在するのか?という考え方からしても、数値や手法重視若しくは、スタインウェイ他欧米メーカーというブランドを余りに信じ込みすぎてしまい、それが全てと考えてしまうことに、国内のピアノ技術が未だに追い付かない原因が有るのではないでしょか? つまりは、良いピアノ(グランドピアノ)の音を作り上げられるのは、欧米での音を文化の根底から聴いてきた人物のみが可能であるというのは、言い過ぎでしょうか?実際に世界の音楽業界で活躍する日本人というのは、少数ながら存在するのは事実です。こうした人々は、どういう経路を歩みそこまで行き着いたのでしょうか?大方は現地へ行き、そこで叩き上げで才能を見出され、そして現地の音楽業界に溶け込んでいます。また、実際的な実績を上げており、少しの留学や研修ではなく、現地で通用する音楽・ピアノの音を作り上げ、国際的な評価を獲得しています。しかしここで問われるのが、何故その世界で活躍する多くの人々が、国内では無名であるケースが多いのか?ということです。 私も国内のCDにクレジットされるケースが少ないことを聞かれますが、それは海外を主な活動の場としており、国内での活動に重きを置いていないというケースが多いように思えます。残念ながら、世界のレベルを知った人たちが、国内での活動が疎かになってしまうことは間違いないでしょう。それ程に魅力的で、真に実りある活動ができるのは欧米であることは間違いありません。 そうした世界で通用する感性を持ち合わせる人物たちが、国内に意識を向けて貰うには、国内側も認識を新たにし、世界レベルというものがどれほどであるのかを理解することも大切でしょう。 そして、欧米で本当に才能を認められるピアノ技術者が、日本でピアノを調整していくとしたら、どれほどに素晴らしいことでしょうか。今のところ、こうしたアグレッシブな動きに、国内は順応できていませんが、将来的には確実にピアノの音作り(調律)においてもグローバル化が進むことでしょう。これは音楽や映画などのエンターテイメント業界全体が、既にグローバルの波に入っており、エンターテイメントよりも、もう少し静かな器楽業界にあろうとも、この波を止めることは出来ないはずです。欧米の調律師達が、日本に駐在する時代が来るかもしれません。こういった流れを歓迎し、本物の感性が日本へ入ってくることを積極的に受け入れなければ、音楽も楽器から発せられる音も、何時まで経っても世界基準からは遅れたままです。 理想のグランドピアノの音色、最高のグランドピアノの音色を考えることは、木質が昔はこうであったとか、設計がどうといったことは表面的な事実です。これらは様々なところで論じられていますし、ピアノという個体は先にも述べたように、『ピアノの音』というものから大きく逸脱することはありません。その先にある濃密で魅力的なグランドピアノの音を作り上げるには、欧米でトップを狙える才能を持ち、更にはその才能を育む経験を有する、芸術性溢れるPiano Technicianの存在です。この存在なくして、今後国内のピアノが世界から見ても魅力的な音として認識されることはないでしょう。 果たしてこれまでに、こうした視点というものが存在したでしょうか? 最高のピアノを求めるのであれば、最高の才能を有するピアノテクニシャンを探し当てることが、今最も重要であると言えるかもしれません。

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